京都の仏壇・仏具メーカーの老舗、株式会社若林佛具製作所(本社:京都府京都市/代表取締役社長:若林智幸)は、新しい仏壇仏具のかたちを模索する試みとして、外部のクリエイターとのコラボレーション作品を次々と発表している。
その一環として、近年は盆提灯の商品開発にも精力的に取り組んでいる。2022年6月には、新作盆提灯「BONTOU Lantern」「BONTOU Chochin」と盆飾りセット「TOU」を発表。同社広報担当の田辺由保さんに、新商品のコンセプトや今後の展望、課題などを伺った。
現在の住空間に合う盆提灯を開発
「住空間やライフスタイルの変化に合わせ、コンパクトでモダンな仏壇が増えてきています。
一方で盆提灯のデザインは昔からあまり変わっていません。
インテリアに合うおしゃれな盆提灯があってもいいのではないかという発想から、弊社オリジナルの盆提灯を開発することになりました」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
AKASHI は、雲手(取っ手)を真鍮のラインで表現したモダンな盆提灯。
和室にも洋室にも違和感なくなじむ同商品は、各種メディアで取り上げられたこともあり、500 個の在庫がなくなるほどの売れ行きを見せたという。
2021 年には盆提灯シリーズの第2段として「AGASTO」と「TSUDOI」が開発された。
AGASTO は、置き型としても吊り型としても使える三つ足型の盆提灯。
三つ足型のかたちを残しながらも、脚をブラックスチールに置き換えることで、伝統的な様式を守りながら現在のライフスタイルに合うデザインに仕上がっている。
TSUDOI は、小型仏壇や手元供養に合わせたサイズ感が特徴の、コンパクトでシンプルな形状の盆提灯。
取り外し可能な吊手により、置き吊り両用で使える機能性を持ち合わせている。
新作盆提灯は長く使うことを想定
2022 年6 月、盆提灯シリーズの第3 段として、「BONTOU Lantern」と「BONTOU Chochin」がリリースされる予定だ。
デザインを担当したのは、石川県・金沢を活動拠点としたデザイナーの原嶋亮輔。
BONTOU Lantern は、紙を巻きリングで留めたシンプルでモダンな行灯。紙を巻きリングで留めるという仕組みは、「簡単に雰囲気が変えられるような、いままでにない仕組みの盆提灯をつくりたい」という構想から生まれたという。
「ひとつの盆提灯を長く使っていただきたいとの想いから、紙を簡単に入れ替えることができる仕組みにしました。
来年以降はさまざまなクリエーターと協業して、絵柄の入ったラインナップも増やしていく予定です。ぜひ、初盆は白提灯として使ったあと、来年以降は絵柄の入った紙に入れ替えるなど、自由にアレンジして使っていただきたいです」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
BONTOU Chochin は、近年需要の高まる円筒型の盆提灯をデザインしたもの。台付仏壇や伝統的な様式の仏壇にも合わせやすいサイズ感と、和を感じさせつつもインテリアに溶け込むようなモダンなデザインが特徴だ。
「円筒型の盆提灯というと、花柄などの絵柄が入っているものが多く、どこか垢抜けない印象がありました。そこで、どこか日本的でありながらスタイリッシュな盆提灯をつくりたいと原嶋さんに相談し、このかたちに落ち着きました」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
シンプルな円筒形の盆提灯でありながら、細部には岐阜提灯職人の技術の高さが宿っている。
「盆提灯は、ひごでつくられた骨の部分に和紙を貼り合わせ、重なった部分を切り落としてつくられます。この工程には高い技術が必要です。
BONTOU Chochin には岐阜提灯職人さんの技がこめられており、火袋の仕上がりが本当にきれいです。
こればかりは写真ではなかなか伝わらないので、多くの方に直接見ていただきたいと思っています」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
コロナ禍も3年目を迎え、感染症対策にともなう規制が緩和されつつある。
今年の夏は帰省する人も増えると予想されることから、田辺さんは「盆提灯を通して家族でコミュニケーションを図ってほしい」と話す。
「盆提灯を飾って、『これどうしたの』『実はこういう風になっていて』といった会話のきっかけにしてほしい。盆提灯を、家族の会話を照らすひとつのツールとして使っていただけたら幸いです」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
次世代にお盆の風習を伝えていくツール
今年は盆提灯に加え、初の盆飾りセットとなる「TOU(とう)」を発表。
TOU は訪れる・訪ねるの文語的表現で、「旅の行き来をもとに家を訪ねる」「家に訪れて欲しい」という気持ちを表している。故人の帰りを心待ちにする気持ちを込めて名付けられたそうだ。
「お盆というとなすやきゅうりを用意するのが一般的です。しかし、それらにどんな意味や願いがこめられているのかを知らない方も多いのではないでしょうか。
まずはお飾りにこめられた意味を大人が知り、子どもに伝えていけるツールがあるといいのではないかと考え、『TOU』が誕生しました。
長く使い続けてほしいとの思いから、なすやきゅうりの代わりに、精霊馬と蓮の葉のうつわをご用意しています。ぜひこの盆飾りセットを使いながら、お盆という日本の風習を、先祖・家族を想う行事として次世代に引き継いでいっていただければ幸いです」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
今後は流通により力を入れていきたい
これまで5張の盆提灯を開発してきた若林佛具製作所。盆提灯としてのラインナップとしては一通り揃えることができたため、今後は流通により力を入れていきたいと田辺さんは語る。
「5帳の盆提灯は現在、弊社がプロデュースするオンラインショップ『なごみ工房』各店のほか、京都本店で取り扱っています。今後は家具店など、仏壇仏具店には来ない方の目にも触れるような場所に置いていただくことで、より商品の認知度を高めていきたいと考えています。また、盆飾りセット『TOU』については、本屋さんに置いていただきたいという思いがあります。たとえば、お子さん向けの本が置いてあるコーナーなどにあったら、親子で日本の文化について学ぶ機会にもなるのではないでしょうか」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん
仏壇仏具店以外の販路を開拓する一方で、業界内での横のつながりも深めていきたいという。
「弊社が卸をやっていることがあまり認知されていない印象があります。弊社だけで商品を紹介していてもなかなか広まりません。ぜひ業界内で手を取り合い、新しい商品を紹介し合っていけるような関係性を築いていきたいです。もし弊社の商品のお取り扱いを希望される仏壇仏具店さまがいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください」
株式会社若林佛具製作所(京都府京都市) 田辺 由保さん