「仏壇離れ」がすすんでいる昨今、住宅に仏壇のないケースも増えています。
しかし、ある一定以上の年齢の方は、自宅に仏壇があり、またその仏壇に定期的に手を合わせる家族を見ながら育ったのではないでしょうか。
本記事では、そうした文化が薄れていく中で子供たちにどういった影響があるかを、統計的なデータも交えつつ解説していきたいと思います。
調査結果では、子供の『他者への優しさ』が優位に向上
薫香トップメーカーの株式会社 日本香堂が、尾木ママこと教育評論家・尾木直樹氏の同氏の監修・指導の下、 全国の中学1年生~高校3年生(12~18 歳)の男女生徒 1,236名に対して、供養行為と他者への優しさ・思いやり(コンパッション)に影響があるかどうかを調査しました。
そもそも、本調査は尾木氏が、長年にわたる〈いじめ問題〉の調査研究の中から『供養行為に対する子ども達の経験頻度と彼等のやさしさの度合には強い関係性があるはず』との仮説を立て、それに対して株式会社 日本香堂が共同研究を申し入れたもの。
教育の現場に携わる尾木ママの実感として、『供養が子供の情操教育に役立つはず』という予想があったということです。
そして調査の結果、『墓参り経験が「年1回以上」か、それ未満か』および、『仏壇礼拝の機会が毎回か・ときどきか・しないか』という区分により、優しさ・思いやりの指標に顕著な差が現れました。
「他者への冷淡さ」の否定は最大12.7ポイントの差
例えば、下記の図は『仏壇礼拝の機会が毎回・ときどき・しない』という頻度で中高生を区分し、それぞれの設問にどのように回答したかを表した図です。
※毎回の基準…仏壇を保有している家に住んでいる場合は『ほぼ毎日』、保有していない家に住んでいる場合は『仏壇のある場所(実家等)に行ったときは必ず』という子供を『毎回』と区分しています。
この調査における『他者への冷淡さ』を測る調査によると、『誰かがその人の悩みについて話す時、「そんなの知らないよ」と感じる』という設問に対して、『そうではない・どちらかといえばそうではない』と答えた子供の割合(他者への共感を示した割合)は、毎回の子供で56.6%、ときどきの子供で48.8%、しないという子供で43.9%という結果が出ました。
同じく、『私は他人が抱える問題に興味がない』という設問について、毎回の子供で41.0%、ときどきの子供で32.7%、しないという子供で32.8%という結果が出ました。
SDGsが叫ばれている昨今、多様性や福祉への問題解決の礎となる『他人が抱える問題を何とか解決できないかという意識』は、これからを生きる子供たちにとってとても大切なものです。
仏壇や、墓参りなどの習慣は、定期的に自分以外の他者に思いを馳せる機会であるため、こうした他人への理解や気持ちを育む効果があるのだと考えられます。
「他者への理解・共感」の肯定は最大12.4ポイントの差
また、同様に「他者への理解・共感」の力も、仏壇や墓参りが育む可能性が指摘されています。
仏壇へお参りする機会を『仏壇礼拝の機会が毎回・ときどき・しない』の区分に中高生を分け、『私には他の人と違うところがたくさんあるが、誰でも私と同じように苦しみを感じることを知っている』に「そうである・どちらかといえば、そうである」と回答した割合は、毎回の子供で46.6%、ときどきの子供で41.5%、しないという子供で37.5%となりました。
こちらの結果からも仏事に触れる機会の多い子供のほうが共感性も高いということが結果としていえると思われます。
なぜ墓参りや仏壇が情操教育に良いのか?
本調査では、この結果について脳科学者の中野信子氏の研究をもとに解説が付されています。
それによると、【「祈りは『未来をよい方向に変えようとする営み』」であり、「大切な誰かを思うとき、心がその人への愛情にあふれるとき、脳内にはオキシトシンが多量に分泌されている】と述べられており、【「祈る」という行為は単なる宗教行為として捉えられがちだが、脳の活性化や免疫力向上などにつながる有益で理にかなった科学的行為でもあり、祈ることでコンパッションを醸成し、高めることは脳科学的にみても間違いなさそうである。 】と述べられています。
要するに、仏壇やお墓に礼拝する機会により、育児などでも分泌される共感・愛情を高めるオキシトシンなどの脳内物質が分泌され、精神的安定性が高まるとともに、自己肯定感と他者への理解・共感性が高まるのではないかと分析しています。
仏壇やお墓に参る機会の多い家庭環境であることが共感性を育む
また、下記は、いい仏壇独自の見解ですが、そもそも仏壇やお墓参りを定期的に行う家庭の場合、親戚づきあいや祖父母、近所住民との交流が盛んな家庭であることが想像できます。もしくは、身近な親族が亡くなった経験がある子供である可能性もあるでしょう。
そうした家庭環境で育った子供の場合、核家族で限られた人間関係で育つ子供よりも、幅広い立場の人と接する機会が増えます。そうなると、他者の立場を理解し、共感しなければいけない場面が必然的に多くなり、結果として思いやりや優しさが育つという背後関係も考えられます。
いずれにしても、仏壇やお墓に手を合わせるのは『ご先祖さまや、亡くなった家族は今までどんな思いで生きてきたんだろう?』『自分がここにいるのは、先祖から受け継いできたものがあるからだ』といった気持ちを抱く良い機会であり、強制的に他者のことを考える時間になることは間違いありません。
また、この調査結果は、自宅に仏壇がなくても、祖父母宅や親せき宅の仏壇でも同様の結果が得られることを示しています。
積極的に子供に線香をあげ、仏前に手を合わせる機会を作ってあげることは、それ自体がすでに『他の人を気にかけられる優しい子供に育てる教育』であるといえるでしょう。
歴史・古文など文系科目の理解向上にもなる
そのほかにも、仏事に触れることは歴史や国語、特に古文の理解にも役立てられることが考えられます。
日本の歴史は仏教と切っても切り離せないものであり、仏教が伝来した時代から近代にいたるまで、仏教的な思想や、寺や僧院との関係の中で語られてきます。
子どもにとっては、仏壇やお経のそれぞれの意味がよくわからなかったとしても、親や祖父母が、その行為にどういった意味があるのかというのを教えてあげることで、文系科目の理解向上に役立てることができます。
例えば、日蓮宗の仏壇では、日蓮上人の像に綿帽子を載せます。頭に大きな綿を載せた人形を見た子供は、「なんで仏様がお布団かぶってるの?」と思うことでしょう。そこで大人は「あれは仏様ではなくて、日蓮上人と実在した人で、綿帽子はね…」という話をしてあげれば、歴史上の登場人物とそのエピソードが子供心に残ります。
そのほか、各家庭にはそれぞれ宗派があると思いますが、その宗派に由来した仏具や所作には、必ず史的な背景があるものです。それを子供に教えてあげれば、例えば『うちは浄土真宗』と子供が覚えていた場合、関連する『親鸞』や『大乗仏教』なども、歴史の授業の中で理解しやすくなります。
また古文に関しても、仏教説話は古文の出題問題の中でも大きなウエイトを占めます。大学入試にほぼ必須といえる「今昔物語集」なども、仏教の話が多く、出題頻度は高確率です。こうした仏教説話は仏教独自の価値観を語ったものなので、それらが理解できていないと、読解は困難です。
仏壇や墓参りの機会に、こうした話を家族でしてみたり、調べてみたりすることで、子供の知識欲も高まることと思います。
各種資格試験に常識問題として出題されることもある
仏教や位牌・仏壇・お墓の取り扱いや、それらを保有する人々の理解、あるいはマナーについて、実は様々な資格試験で出題されることがあります。
よくある例では、「秘書検定」などでは仏事に関するマナーが問われますし、高齢者と接することが前提の「介護福祉士試験」などでも仏事や宗教に関する出題がなされることがあります。宗教に関する患者さんの価値観を守るという視点で、「看護師試験」にも登場することがあります。そのほか、仏壇や仏間は住宅に関するものなので、宅建の過去問にも登場することがあるようです。
自然と仏前に手を合わせられると、大人になったとき恥ずかしくない
自然と仏壇に手を合わせられる人に対して、育ちの良さを感じる人もいます。
タレントの辻希美さんが、交際中の杉浦太陽さんのご実家にいかれたとき、スマートにお仏壇に手を合わせていたのを『相手の家族を大切にしてくれるのは嬉しい』と、結婚を考える決め手になったというエピソードもあります。
子どもに対して、こうした所作やマナー、価値観を持たせておくことで、ふとした時に『この子は礼儀正しいな』とか『ご両親がしっかりしているのかな』と、他者から一目置かれることになるかもしれません。
仏壇やお墓の文化を子供にも伝えていくことはメリットが多い
上記の通り、仏壇やお墓、仏事に対する知識を子供にもたせていくことは、子供への情操教育的な効果をはじめ、様々なメリットがあることは間違いありません。
このメリットを引き出すためには、『仏壇やお墓に手を合わせる機会を子供に作ってあげる』ということが第一です。
もしご自宅に仏壇がなかったとしても、祖父母の家や、お墓参りの時でも大丈夫です。しっかりと手を合わせる意味を親子で話し合い、思いやりの気持ちで手を合わせられるようにしてあげましょう。
仏壇を設置しなくても、手を合わせる機会を作る供養の方法は下記に。
もし、お孫さんがいらっしゃる祖父母の方であれば、孫の教育の一環として仏壇を検討してみるのもいいかもしれません。子供夫婦の家には仏壇がなかったとしても、遊びに来てくれた時や、法事やお盆の時に、孫と一緒に手を合わせることで、孫の将来の教育に貴重な機会をもたらしてあげることができます。