愛知県豊田市の葬儀社「株式会社フューネ」は、2022年3月、仏壇店としては5店舗目となる「ギャラリーメモリア with 香ぎゃらりぃ」を名古屋市の百貨店星ヶ丘三越8Fにオープンした。
当店舗は、株式会社八木研(本社:大阪府大阪市/代表取締役:八木龍一)がブランド展開する現代仏壇「ギャラリーメモリア」と、株式会社日本香道(本社:東京都中央区/代表取締役:小仲正克)が運営する香りの専門店「香ぎゃらりぃ」との日本初のコラボ店舗となる。
同社代表取締役社長の三浦直樹さんに、新店舗のコンセプトや仏壇事業を手がける狙いなどを伺った。
三浦 直樹(みうら・なおき)
1975年、愛知県豊田市生まれ。愛知県立豊田南高等学校卒。
平安会館で3年間修行した後、ミウラ葬祭センター(現:株式会社フューネ)に入社。
2005年、30歳で同社の代表取締役に就任。
趣味は読書、旅行。座右の銘は「『感・即・動』気づきの実践」。
6年で5店舗の仏壇店を出店
創業68年、愛知県を中心に10余りの葬儀会館を持つフューネ。2011年には、週刊ダイヤモンドの「お葬式納得度ランキング」で日本一に輝いた経歴をもつ。葬儀社である同社が仏壇事業に乗り出したのは2016年。背景には、年々小規模化していく葬儀への危機感があった。
三浦氏
この先葬儀だけでやっていけなくなるのは目に見えていたので、他の事業にも手を広げる必要性を感じていました。
また、当時は終活ブームの真っ只中。供養に関するサービスをワンストップで提供できる体制をつくり、フューネというブランドの信頼性を高めたいという思いもありました。
そんな中、八木研さんからイオンモールへの出店を持ちかけられるという好機が訪れ、仏壇店の出店を決意しました。
2016年、1店舗目の仏壇店「ギャラリーメモリアイオンモール長久手店」をオープン。当時は葬儀社がイオンモールに仏壇店を出店する事例がまだなく、社内でも仏壇事業への反発が少なくなかった。
だが三浦さんは、仏壇店に訪れる顧客の反応から、イオンモールへの出店に手応えを感じたという。
三浦氏
『最近の仏壇はすごいわ』とおっしゃるお客さまが多かったです。それまで持っていた仏壇への固定概念がくつがえされ、扉ひとつとっても、観音開きではない仏壇があることに驚いていたようでした。
実際のところ、八木研さんの商材自体は20年ほど前からあります。ただ、現代仏壇の認知度が低いことに加え、仏壇店の敷居の高さもあり、人目にふれる機会が少なかったのでしょう。
「今度はもっと人が集まる場所に出店すれば人目にふれやすいのでは」という思いから、2018年、2店目の仏壇店をイオンモールナゴヤドーム前に出店。
三浦氏
予想通り、野球観戦やコンサートの帰りに店舗に立ち寄ってくれる方が多いです。県外のお客さまも多く、人目にふれるという点では成功しました。
その後、2020年に「感動葬儀。フューネ葬儀仏事サロン」、2021年に「ギャラリーメモリアイオン八事店」を出店。順調に店舗拡大を続ける中、今年3月に5店舗目となる仏壇店「ギャラリーメモリア with 香ぎゃらりぃ」を名古屋市の百貨店星ヶ丘三越8Fにオープン。百貨店ブランドとしてすでに地位を確立していた香ぎゃらぃとの競合を避けるため、日本香道とのコラボ店舗として出店することになったという。
三浦氏
仏壇をご覧になったお客さまが線香を購入されたり、線香を購入されたお客さまが仏壇の見積もりを取っていかれたりするなど、仏壇とお香の相乗効果が集客につながっています。まだオープンして間もないですが、いまのところ成果は上々といえます。
仏壇事業によってもたらされた恩恵
フューネはこれまで開設した5店舗の仏壇店すべてに、終活全般の相談を受け付ける「葬儀コンシェルジュ」を置いている。
三浦氏
葬儀社ならではの強みを活かしたサービスで、仏壇店の価値を高める狙いがありました。葬儀社や仏壇店に敷居の高さを感じている方は多いです。その点、ショッピングモールや百貨店内の終活相談コーナーには買い物のついでにふらっと立ち寄れる気軽さがあるのでしょう。お客さまからは大変好評をいただいています。
葬儀コンシェルジュを置いた仏壇店の開設は、仏壇以外の事業へ恩恵ももたらした。
仏壇店に来たお客さまが葬儀の相談もしてくださるなど、仏壇店から葬儀事業への送客が予想以上にありました。また、墓石や散骨の相談に来られた方は、弊社の墓石事業や散骨事業につなげています。
フューネは葬儀をはじめとする終活事業だけでなく、2021年に保育園を開園するなど、新規事業への進出を積極的に行っている。それらのすべては、「本業である葬儀につなげるため」だと三浦さんは語る。
三浦氏
保育園事業には、フューネを知らない年齢層の認知度を高め、葬儀の集客力を上げるという狙いがありました。身内の不幸が出たときに、子どもが通っている保育園が運営している葬儀社に頼むのではないかと考えたのです。実際、保育園を開いてから、保護者の方から4~5件葬儀のご依頼をいただきました。今後終活以外の事業を手がけた場合も、最終的には葬儀につなげるつもりで行っていく方針です。
供養の心を守るために必要な変革
業界全体が右肩下がりになっているいま、企業が生き残っていくにはどうすればいいのか。三浦さんは、時代を取り込む必要性についてこう語る。
三浦氏
音楽にたとえるなら、昔は中森明菜の歌をカセットテープで聞く時代がありました。その後カセットテープがCD、MD、ハードディスクへと変わっていき、いまはクラウドで聞く時代に。中森明菜の歌はいまも色褪せないけれども、聞く媒体が変わっていったのです。供養業界も同じです。供養の心の価値は変わっていませんが、時代とともに供養の心を表す媒体は変わっていきます。我々が生き残るには、売る物、売り方を時代に合わせて変えていかなければなりません。
移り変わりの激しい現代では、過去の成功事例が通用しなくなるペースも速い。だからこそ、いまのやり方が時代に合っているのかを常に確認し続ける必要がある。
三浦氏
ここまで仏壇店の店舗拡大を続けてきましたが、ショッピングセンターへの出店はもはやCDの時代の売り方かもしれません。なぜなら、ここ数年ECサイトで仏壇を購入する人が増えているからです。
しかも、店舗が増えれば増えるほど倒産するリスクも上がっていきます。一方で、実店舗ならではの強みがあるのも事実です。八木研さんの商品はECサイトでも定価価格で販売されています。価格が変わらないのであれば、実際に商品を見ていただける上、さまざまなサービスもついてくる実店舗には、ECサイトにはない付加価値があります。今後も実店舗の強みを活かしつつ、時代に合わせた売り方を模索し続ける必要があるでしょう。
戦略を立てるには未来予測も欠かせない。三浦さんは、業界の枠を超えた視点で未来を見据えている。
三浦氏
極論かもしれませんが、そのうち仏壇もサブスクリプションが当たり前になる時代がやってくるかもしれません。弊社では保育園事業の一環として、今年の4月からおむつのサブスクリプションサービスを導入しています。これがお母さん方から好評で、今後もさまざまな分野でサブスクという形態がますます広がっていくだろうと予測しています。
時代とともに変えるべきものと変えてはならないもの。どうすれば「供養の心」という不変的な価値を守ることができるのか、業界全体が問われている。(取材・文=八木麻里恵)
株式会社フューネの店舗一覧
ギャラリーメモリア イオンモール長久手店
ギャラリーメモリア イオンモールナゴヤドーム前店
ギャラリーメモリアイオン八事店
感動葬儀。フューネ 葬儀仏事サロン